京都、八坂通の京料理、割烹 祇園 さゝ木

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初代店主の今とこれから。
次代を担う料理人に伝えたいメッセージ。

佐々木浩×笹島保弘(「イル ギオットーネ」オーナーシェフ)

佐々木浩が、各界の著名人を迎えて対談を繰り広げるシリーズ「人に味あり 味に人あり」。
第9回目のゲストは、「イル ギオットーネ」の笹島保弘シェフ。
佐々木と同世代の料理人であり、
祇園・八坂という地に店を構えるふたりは
料理のジャンルを超え、互いに刺激を受けているという。
“初代”店主という共通点を切り口に、白熱した対談となった。





一代目店主の利点、そして苦悩。

佐々木(以下、佐):笹島さん、宜しくお願いします。じつは今日(9月4日)で「祇園 さゝ木」は丸18年を迎えました。

笹島(以下、笹):佐々木さん、それはめでたいですね。「イル ギオットーネ」本店は今年、15年目です。佐々木さんと僕の共通点は、どちらも初代店主であること。初代ならではの利点、あるいは苦悩も、共感する部分が多いと思います。

佐:何にも縛られず“好きなことができる”というのが初代ならではのメリットでしょう。15代続く日本料理の若主人に「佐々木さんは自由でいいですよね」と言われたことがあります。代々続く老舗になると、守らないといけないものがあるからね。僕らは、受け継ぐべきものがない、というのが「自由」と捉えられるのでしょう。

笹:自分がこうだと思ったら、突き進めばいいだけ。「イル ギオットーネ」は開店当初から、京野菜など地元素材を使ったイタリアンを提供してきました。お客様から「この皿のどこがイタリアンや?」と言われたことも数多ありました。でも、僕自身が作りたい料理はコレなんだ!と続けることが大事。15年も経つと、「こんな和食みたいなイタリアン食べに来たんじゃない」とか「賀茂茄子は食べたくない」なんてお言葉は、誰からも聞かないように。継続は力ですね。

佐:なおかつブレないことって本当に大事。だから、笹島さんは京都のイタリア料理における開拓者になられた。

笹:佐々木さんだってそうじゃないですか。京料理の世界に革命を起こしてきた料理人のひとりでしょう。こういう勢いのある人間が、もっと現れてほしいのですが。僕たちの世代はガツガツしている料理人が多くって、皆、ハングリー精神がありましたよね。いっぽう今の30代、40代の料理人は、ゆとり世代というか。1つ成功体験をしたら「もうそれで十分なんです」と次へ進まないパターンが多い。でも、料理人として成功しているのであれば、若いうちに次のアクションを起こさないと。50 代になってから、店を大きくしたり店舗展開するとなると、体力も気力も続かなくなる。

佐:「アイツ、生意気なヤツや」、「むちゃくちゃしよんなー」という子もいない。

笹:今の若い料理人たちは、非の打ち所がないんですよね。「この料理、めっちゃ美味しいんやけど、要素を詰め込みすぎ。バランスどうなん?」といった挑戦的な皿が、時としてあっていいと思う。

佐:波風たてないんですよね。こないだね、僕が「ふじ田」の料理長を務めていた27歳の頃に書いた献立が出てきたんです。よくもまぁこんなにバランスの悪い献立で、お客様が来てくださったな…と苦笑い。でも、お客様は支えてくださいました。なぜなら、勢いと意欲があったから。ハズさず無難に…は面白くない。こと京都の和食に関して言うと、若手の店は客数10人前後の店が目立ちます。それで満席=予約が取れない店というイメージが強くなる。30~40人が入る店で、満席が続くとなったら、それは凄いなと思うのですが。その子たちは店を移転して拡張していこうという気もないんです。

笹:イタリアンも同じ。15~20人入ったら満席というパターンが多いです。

佐:ある若い料理人に「何で店を大きくせぇへんねん?」と伝えたら、「人を育てるのが面倒でしょう」と言うのです。でも、人材育成をするからこそ若い料理人が増え、少なからず業界が活性化するものです。しかも「お前が倒れたら、どないすんねん?」と。

笹:僕も同じことを弟子たちに伝えますよ。下手したら自分の店が潰れるわけで。人を育てることは自分の成長にも繋がると思うんですよね。「イルギオットーネ丸の内店」には「3年後に独立をしたい。だからイルギオットーネに入って勉強したい」という修業志望者も来ます。僕、最初の面接では「料理長でやりたいのか?オーナーシェフになりたいのか?」まず聞くことにしています。前者の人間には調理技術を教えます。後者の人間には経営のレクチャーをとことん行います。僕も佐々木さんも、市場へ出向いて食材を目利きするとき「これは使えるけれど、これは高すぎるから要らない」など、何となく原価計算ができるじゃないですか。そのように帳尻を合わせるのがオーナーシェフの役割だし、その感覚をとことん教えます。さらに。収入や支出などを包み隠さず伝えるのも僕たちの役目です。これが面倒だから、若い子たちは小バコの店舗で、少人数で店を回転させるのでしょう。

佐:若いうちは、どんどんステップアップしていかないとね。僕の店も、小さいハコから徐々に大きな坪数の店へ3回移転しました。笹島さんもそうですよね。まぁ、アナタは展開しすぎだけれど(笑)。

笹:そんなこと言わないでくださいよ(笑)。八坂の本店をベースとし、東京・丸の内店、そして四条烏丸に「トラットリア バール イル ギオットーネ」、大阪・グランフロントに「イル ギオットーネ ディ ピュー」を展開し、現在は70人のスタッフを抱えています。今の課題は、この先のことですよね。作り上げた店を、次の世代へどう繋げるか。何代も続いている老舗だって、初代店主は同じことを考えていたと思うんです。僕の場合は子どもがまだ小さいですから、まだまだ現実的ではないのですが。

佐:僕も同じことを考え始めるように。子どもたちが店で働くようになり、次の代に受け渡すために、これは褌を締めて展開させないといけないという気持ちに。

笹:京都は“継ぐ”という根強い文化があります。和食はもちろんですが、洋食も。フレンチ「ボルドー」の大溝隆夫シェフ、イタリアン「カーサビアンカ」の那須昇シェフのところも息子さんの代に。東京ってあまりないのです。僕がお付き合いさせて頂いているイタリア料理人では、「アルポルト」片岡譲シェフくらい。

佐:1代で廃業!は簡単にできることですが、受け皿を作らねばという考えになりますよね。僕ね、以前、笹島さんと対談したことがあったじゃないですか。その時、「50歳を過ぎたら、昔の京会席を作っているかも」と断言しました。現在54歳ですが、そんな気には全くなれませんね。

笹:僕は今、51歳ですが、まだまだこれから。生涯現役でいたいですね。

佐:でも50歳を過ぎると、発想が鈍ってきたな…と感じることありません? 自分自身を追いつめはしますが、アイデアが出てこない。その点、ウチの店の料理長・前川浩一は、面白い発想をしますよ。でも彼らに「芋を上手く炊いてみて」と作らせても、僕らのほうがレベルは上なんです。経験があるしね。

笹:確かに若い頃は、いい考えを閃いても着地が危うい場合も多々ありますよね。その点で、ちょうどいいのが40代。パッと思いついたものを、迷わず形にできる。

佐:発想とテクニック、どちらも併せ持つのが40代でしょう。

笹:そして年齢の経過とともに、オーソドックスな料理を極めていきたいという考えが出てくると思います。おそらく寿司や天ぷらがそうなのでしょう。料理人としての技術がどんどん上がっていくから、突き詰めたくなる。佐々木さんの京料理も、僕のイタリア料理も、古典や伝統といった料理に最終的には落ち着くことができる。

佐:これが創作料理やったら、そうはいかないんでしょうね。

笹:今、「京、静華」の宮本静夫さんや「一之船入」の魏禧之さんをはじめとする京都の中国料理のシェフたちが中国の古典料理の勉強会を定期的に開いているじゃないですか。オリジナルもいいけれど、最終的には古典料理をいかに突き詰めるかなんですよね。

佐:「あの料理人は仕事が古いけれど、旨い料理出すな」という経験、ありますね。ちなみにウチの嫁も娘は、笹島さんが作るパスタが天下一品やと言うてます。

笹:嬉しいお言葉ですね。先日、祇園「イルチプレッソ」の高嶋朋樹シェフが、スタッフ6人を引き連れて来店くださいました。コースで10皿をお出しした後、「チーズ切りましょうか?」と尋ねたら、「トマトソースだけのスパゲティを作ってほしい。この店のオープン当初に食べた、あのパスタが衝撃的な美味しさだった」と。10皿食べられた後にですよ(笑)。同業としては本当に嬉しいです。チーズもかかっていない、トマトしか入っていないパスタなんですが、ちゃんと分かって頂ける人は、そういうところを見ておられるのだなと。どれだけクリエイティブな料理を作っていても、行き着く所はオーソドックス。もしこれから新しいネタ(料理)が出てこなくなったとしても、ベーシックな部分という原点に戻ることができる。

佐:基礎を学んでいるからこそできるんです。

笹:変化球がたくさんあったとしても、例えば「スパゲティ・アーリオオーリオ」が全く美味しくない、というのはダメです。「守破離(しゅはり)」じゃないけれど、基礎がしっかりしていたら、落としどころは随分あります。

佐:もし跡を継ぐ人間が出てきたときは、そんな初代の仕事を継承しなくてもいいんです。ハングリー精神を持ち、新しいチャレンジをどんどんやってもらいたいと、僕は思いますね。



取材日:2015年  9月 24日