京都、八坂通の京料理、割烹 祇園 さゝ木

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いい料理店、いい料理人とは?

佐々木 浩 × 齋藤 茂
(株式会社トーセ 代表取締役社長 兼 CEO)

佐々木浩が、各界の著名人を迎えて対談を繰り広げるシリーズ「人に味あり 味に人あり」。
第7回目のゲストは、「株式会社トーセ」代表取締役社長 兼 CEO 齋藤 茂さん。
京都に本社を置き、家庭用ゲームソフトの企画・開発をはじめ、
モバイル・コンテンツの企画・開発・運営などを手掛けるトーセは
日本最大規模のゲームソフト受託開発企業だ。
経営者であり、美食家でもある齋藤さんが感じる、料理店と食べ手との関係、
さらには「いい料理店、いい料理人とは?」といった話題について
佐々木との対談が繰り広げられました。

トップセールスと料理店


佐々木(以下、佐):齋藤さんにはウチの店を本当によく使って頂いています。上場企業の社長さんというお立場上、ありとあらゆる「いい店」をご存知ですよね。“ここは常連になりたい”という店は、いくつかポイントがあると思うのですが、齋藤さんの場合、「いい店の条件」とは?

齋藤(以下、齋):当社はゲームソフト受託開発専門企業であり、近年は携帯情報端末機器関連のコンテンツ開発も積極的に行っています。基本的に私は、経営者でありトップセールスもやります。ですから、「いい店」とは、美味しさはもちろんのこと、まずはお客様を接待するのに適しているお店。これが最初の条件です。東京から来られるお客様が9割ですので、わざわざ京都へ足を運ばれて「たいした店じゃないな」と思われたら恥ずかしいですから。とにかくお客様に喜んで頂きたい一心です。

佐:社長自らが奔走される、トップセールスですね。お客様をお連れするためのお店探しは、いつから行われているのでしょう。

齋:あれは1980年代でした。あるお取引先に、とにかく美食家の専務がおられました。一度、一緒に訪れた店にはお連れするまいと思い、日々、開拓し続けていたのを憶えています。現在、当社のお取引先は、ゲーム業界はもちろん芸能界、出版業界、映画業界と多岐にわたります。それぞれのトップのお方が京都に来られます。ですから、会食をする店はどこでもいいわけではありません。お料理の質、設え、客層、サービス…、店づくりの全てに質の高さを感じるお店でないと。さらには、6〜8人で貸切りにさせて頂ける店が有り難いです。そこで美味しいお料理を頂きながら、ミーティングを行い、仕事の話もスムーズに進めることができるように、という考えが私の「いい店の条件」の大きなコンセプトでもあります。



佐:さすが、経営者でありトップセールスマンですね。そういう視点がおありだったとは。

齋:私の会社の場合、ひとつのゲームソフト、ひとつのシステム作りには膨大な時間と金額がかかりますので、1年に数社の新規の仕事を決めれば良いのですから、毎日、毎日営業は不要です。その後は、お客様とのお付き合いを維持できるかどうか。佐々木さんも、経営者と営業、ふたつ顔を持っておられるじゃないですか。

佐:そうですね。ふたつを兼ね備えていないと店は成り立ちません。では、齋藤さんが1度訪れて「常連になりたい」と思われたら、どのようなアクションを起こされます?

齋:昔はね、ここは私好みの店だと直感したら、2週間に3回くらいは訪問しましたね。1年に3回じゃ、お店の方に忘れられますからね。今は、気に入ったらすぐに次の予約を入れさせて頂くことにしています。

経営者の視点で俯瞰する、店づくりと料理。



佐:齋藤さんは「あの店は高いな」とか「あの料理でこの価格は値打ちある」など、お店のことをいつもシビアな目で見ておられますよね。

齋:つい経営者の視点で、俯瞰してしまいます。東京は、高いのに美味しくなかったとしても流行っている店はあります。だけど、京都でそれはまかり通りません。私の視点は5000円刻みです。たとえば割烹。1万円でおまかせ料理を出されている場合、美味しかったとしても高級食材を使った料理は、あまり出てきません。でも料理の細部にまで工夫を感じる店は値打ちがあります。1万5000円になると、アワビも大きなサイズのものを出されるなど、食材が変わります。そして2万円となると、料理だけでなく器、設え、そしてサービスの質も求められます。2万5000円になると、そこに店としてのブランド価値、さらにはそこにしかない味を頂けるなど、プラスαの価値が必要となります。
そういった点で、「祇園 さゝ木」の姉妹店「祇園 楽味」は本当に値打ちがあると思いますね。目の前にズラリと旬の食材を並べ、好みの食材を好みの調理法で仕上げてくださる。しかもお料理を頂いてお酒を飲んで、1万5000円前後ですから。その日の営業を終えられ、あれらの食材が残ってしまうリスクを考えたら、納得どころか、頭が下がる思いですよ。

佐:ありがたいお言葉です。ところで齋藤さんは、会食はもちろん、プライベートに至るまでほぼ毎日、外食をされているじゃないですか。例えば4月。どこの店へ訪れても、「筍」ばかり。それって大変ですよね。

齋:料理の仕方によりますよ。料理人がいかに「工夫」をされているかです。例えば、祇園の「川口」や、六本木「龍吟」で頂く鮎の場合、焼くのではなく、素揚げして、特製のソースで頂くことができる。「龍吟」にいたっては、何十年と寝かせた味醂と、鮎の肝のソースで食べさせてくれる。また、鱧の場合、「割烹 いふき」は、鱧の骨切りをしなくていいエンガワのようないい部位を出してくれます。あれは美味しい。要するに、連日同じ食材を頂いたとしても、料理人が考え考え抜き、工夫を凝らした料理には、驚きがあるし飽きません。

料理とゲーム作りの共通点は「センス」



佐:食べることが本当に好きやないと、その言葉は出ないと思います。ところで齋藤さんは、京都ブランド推進連絡協議会の会長をされるなど、「京都ブランド」の向上にも多大な力を発揮されていますよね。店を決める際にも、京都ならではの文化を重要視されているのでは?

齋:そうなんです。京都の魅力や品格、あるいは「京都ならではのおもてなし」を、京都府外の方々にいかに気に入って頂けるか。そこに合致するお店も、常に開拓しています。でも今はネット社会であり、情報化社会ですから、いい店探しは昔に比べるとずいぶんと楽になりましたよ。

佐:そんな齋藤さんにとって、料理店とは?そして料理人とは?

齋:料理はね、ゲーム作りと一緒だと思います。
先も話したように私は店や料理を経営の視点で見ますし、そこに何かしらの工夫があったりするわけで。その点で料理は、ゲーム作りと一緒。なぜなら、私たちが開発するゲームも、無限の素材があり、そこにあらゆるアイデアを駆使し、製品を作るのですから。料理人も同じでしょう。いい食材があり、切る、煮る、焼く…とあらゆる調理法があります。例えばダシひとつをとってもカツオを入れるタイミングの見極めや、肉の場合は熟成させるなどあらゆる手法があります。料理人が工夫を凝らし、見事な料理が完成しても、次は出し方や出すタイミング…と、様々な要素がうまいこと絡みあったときに初めて食べ手の心を掴む料理となる。ゲームは、たとえ素晴らしい製品ができたとしても、ベストタイミングで発売しなければそれは売れませんから。そういった様々な点で、料理とゲームは共通点が多い。

佐:料理とゲームの共通点。すごく共感しますね。そしてコース料理の場合、緩急つけるなど組み立て方も重要です。そろそろさっぱりしたものが欲しい、とお客様が感じられるタイミングで、酸味を利かせた軽やか料理をすっとお出しできるかどうか。

齋:そこもゲームと似ているんですよ。私たちのゲーム開発は、ゲームに人工知能があるような仕組みを作り込み、そろそろプレイヤーが飽きそうだな…と思ったタイミングで違う演出を入れたりね。こればかりは「センス」です。センスがない人は何を作ってもうまくいきません。おそらくセンスのある一流料理人は、ゲームを作ってもいいものを開発されると思いますよ(笑)。その点、同じアワビ料理でも、「なんでこんなに美味しくないんだ」という料理人もいれば、アワビのその時期の良さを活かしきった素晴らしい料理に仕上げる料理人もいる。センスのある料理人は、何を作らせても美味しい。ずばり「センスがいいかどうか」、このひと言に尽きると思います。

佐:齋藤さん、逆にめっちゃプレッシャーを与えられますわ…(笑)。

齋:大丈夫、佐々木さんは、じゅうぶんセンスがある料理人ですから。

取材日:2014年 8月14日