京都、八坂通の京料理、割烹 祇園 さゝ木

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「おもてなしの文化」

佐々木浩×中山永次郞
(ANAクラウンプラザホテル京都 代表取締役社長)

世界が認める観光都市・京都で、国籍も生活スタイルも多様なゲストを受け入れるANAクラウンプラザホテル京都を訪ねてのTALK 17。お相手していただく中山永次郞社長は、事業再建のスペシャリスト・ターンアラウンドマネージャーやコンサルタントとしても知られ、各地で疲弊した旅館やホテルを数多く立ち直らせてきた実績の持ち主。その手腕を発揮されるホテル経営においてもキーとなる、おもてなしについて語り合いました。
対談にご用意いただいた部屋は、世界遺産・二条城を正面に眺める「プレミアムキャッスルビューツイン」。日本の美意識を表すモチーフをインテリアに取り入れるなど、和と洋をスタイリッシュに融合させた寛げるゲストルームでした。

おもてなしの心


佐々木:いい眺めですね。二条城が広すぎて街のなかにいるとは思えません。平日でもこの人出ですか。ここ数年、インバウンドの数が急増し、日本はどこか浮き足立っているようにさえ思われますが、こちらのホテルに変化はありますか。

中山:日本のゲストの割合が50%になりました。当社はANAの系列でして、海外のゲストは国が片寄りなく振り分けられていますから、同じ国のお客さまに独占されるような事態にはなりませんので、落ち着いてお過ごしいただけます。

佐々木:近頃は、みるからに海外旅行は初めてとわかる人、多いでしょう。私たち日本人だってほんの数十年前はそうでした。その頃に比べ、海外の国と行き来するのは当たり前になり、日本人の異文化にふれる経験値が高くなっているわけですから、これからは海外のお客さんをいかに日本らしく迎え入れるかが問われることになるのかもしれません。

中山:日本のお客さまのホテル使いをみてもそう思います。私たちが子どもの頃は、ホテルはハレの場でした。日本人の国民性によるのでしょうが、恥をかかないように行儀よくせねばとか、マナーを守らねばと気を遣っていましたよね。そうして学びながらホテル文化というものを理解して馴染んでいき、今やホテルは日常的に使いこなされる存在になっています。その日常的な部分と非日常のハレの部分を使い分けされるなかで、ホテルとしては海外のお客さまとどのように融合させていくかという新たな課題でもあります。

佐々木:料理店の場合、お客さんとはお食事される間だけとはいえ直に接することができます。うちのカウンターは、とくに濃密ですが。こちらにはゲストルーム以外に宴会場やレストランなどの附帯施設が各種備えてられており、お客さんの滞在時間も過ごし方もまちまちですよね。お客さんへの対応はどうされているのですか。

中山:私たちのホテルは、宴会の規模で変わりますが常時1,500人近くのお客さまが館内で過ごされています。これには、組織で応じるしかありません。ただ、そこで大事にしているのは、お客さまの声に耳を傾けることです。各部署に届くお客さまの声とあわせ、私あてにもお客さまからメールが届くようになっていまして、毎日読んでいます。それで小さなことも含め問題点やその対応については全社で共有できるシステムにしています。私たちがすべての基本にしているのは、お客さまが寛いで心地よく過ごせるように尽くすホスピタリティです。そのために空間、備品、料理、サービスなど、あらゆるものに目を行き届かせて、社員がお客さまと直に接しなくても、ホテル全体でホスピタリティが表れるようにしています。

佐々木:おもてなしは、接客の心得みたいに思われていますが、本来は中山社長のおっしゃったホスピタリティと同じことですね。日本料理の場合、季節感を大切にしますから、料理で表すだけでなく器や部屋の設いにまで季節に相応しい演出をして、店の者全員でお客さんをもてなす、その心根の表れです。おもてなしは、いわば日本らしいホスピタリティの表れであると思うのです。

中山:演出ということでいえば、京都のホテルには京都ならではのものも求められます。私たちのホテルでは、あえて畳の部屋を設けたり、インテリアやアメニティに京風のデザインを取り入れたりしていますが、一部にしかすぎません。何故なら、海外のお客さまを受け入れるホテルには、聖書がベッドから手を伸ばして触れられる位置に必ずあるというようなグローバルスタンダードが必携だからです。日常でありながら非日常である、ローカルでありながらグローバルである、これはホテルの宿命みたいなものですね。

佐々木:そうなると、柔軟におもてなしするということなのでしょうか。目には見えない内なるところでの精神とかマインドが重要になってきまますね。

中山:そうですね。哲学者の西田幾多郎さんの本『我が子の死』に、こういう一節があります。「人間の仕事は人情ということを離れて外に目的があるのではない、学問も事業も究竟(くっきょう)の目的は人情のためにするのである」。私は、おもてなしの心は、この人情、つまりお客さまへの思いやりだと思っています。

一流の文化人となれ


佐々木:中山社長には、飲食店の経営判断には欠かせないPL(損益計算)とかFL(経費)を詳しく拝聴したいところですが。もっと、おもてなしについて話していただきたきたくなります。もてなす側の心構えというか、ご自身の思いや考えを社内にどのように周知させておられますか。

中山:5年ほど前から社是に「目指すのは京都を強く意識した文化性の高い個性あるホテル」というようなことを掲げています。社内には、食と食文化が一体のものであるように、ホテルにおけるサービスをはじめ社員一人ひとりの行動も含めたあらゆる物事が文化にならないといけない、また、そうなるように努めようといっています。ホテルは文化という考えは、私淑した故鈴木剛ホテルプラザ会長の教えを私なりに敷衍したものです。

佐々木:確かに、人の立ち居振る舞いにはその人なりにまとう文化が垣間見えます。接客といえば、ただ行為を指しているだけですが、おもてなしといえば、日本人ならではの行為を指すという意味で文化の表れといえますからね。

中山:人と接するときの表情や所作にはそれぞれ身につくことに背景があって、突き詰めればまさに文化性の違いが表れてくるのです。私は、社員には常々「ホテルマンは一流の文化人であれ」といっていますが、何か固有の文化を学べとか知性を高めよというのではないのです。京都で仕事をしている限りは、お客さまに京都に関する質問をされたらすぐに答えられるくらいの情報は持っていてほしいけれど、そうした文化的な身構えを求めている訳でもないのです。もっと精神的なものといえばいいか、ホテルマンとしての矜恃ですかね。目には見えないですが、そこを磨けば佐々木さんがおっしゃった立ち居振る舞いは自ずと違って見えてきます。

佐々木:私は京都に長くいますが、恥ずかしいけれど二条城を拝観したことがないんですよ。城内がどうなっているか、何も知らない。先ほど、ロビーで受け付けてくれた係の人に意地悪く尋ねてみたんです。目の前にある二条城に行ったことありますか、と。そしたら、とうに拝観は済ませていたようで、良ければご案内しましょうかと返ってきました。

中山:些細な例でも、そういう受け答えになることが大事なのですね。接客のみならず、どのようなケースであってもお客さまと接するときは相手に対して何か伝えようとしないと、コミュニケーションにならないのではないかと考えています。伝わる思い、それを私はメッセージと呼んでいるのです。かたちだけの対応ではなく、メッセージがお客さまにちゃんと届くような行動をとれるかどうか。届いてコミュニケーションが成り立つから、おもてなしになるのです。

佐々木:そうですね。私も自分の店では、お客さんには楽しんでくださいと話しますが、その根にあるのは、作り手として何かを伝えたいという思いです。だから、何故この食材を選んだのか、どこがいいのか、それをどういうふうに料理するのかなどとお客さんに積極的に伝えます。どのようにしたら料理を際立たせられるか、使う器だって一つもおろそかにせず、思いをこめてお届けしています。

中山:カウンターの席に着き、佐々木劇場を初めて目の前にしたとき、思いがこもっている熱いメッセージだなと感じましたよ。伝えたい思いがメッセージになって伝えられるし、それを受け取ってくれる人がいる。そうした関係から、文化というのは表れるのではないでしょうか。

佐々木:中山社長が話される文化なることばが、どういうものかわかってきたような気がします。本日は、おもてなしについていろいろ興味深いお話を聞かせていただき誠にありがとうございました。


(窓からの眺め)

取材日:20171124
ANAクラウンプラザホテル京都にて