京都、八坂通の京料理、割烹 祇園 さゝ木

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「チーム力」と「我流」。
そして踏み出す新たな第一歩とは―。


対談:佐々木 浩×小山進(パティシエ エス コヤマ)

佐々木浩が、各界の著名人を迎えて対談を繰り広げるシリーズ「人に味あり 味に人あり」。
第1回目のゲストは、「エスコヤマ」小山進シェフ。
2012年11月、パリで毎年開催される世界最大のショコラの祭典では、2年連続W受賞という日本人初の快挙を成し遂げた人物。
まるで兄弟のように息がぴったりの小山シェフと佐々木による、熱いトークセッションが始まった。


佐々木(以下、佐):日頃お世話になっている各界の著名な方々と、
これから対談させていただこうと思っているんです。

小山(以下、小):記念すべき初回に、僕なんてえぇんですか?

佐:あんたしかいてないよ(笑)。小山くんを指名させてもらったのは、
ものすごく勢いがある人間であること。なおかつ人をすごく大切にして、
自身の城や人望をどんどん広めている。それは同業者だけでなく、
例えば庭師さんであっても後輩にしても同じ。ごはんを食べに連れていき
心から向き合い、自分が言いたいことをはっきりと伝える。
そこが気持ちえぇなと思う。ぶっちゃけ僕、
見習うところがいっぱいあるんですよ。

小:アニキ(佐々木)にそう言うてもらえるとほんまに嬉しいです。

佐:小山くんと僕って、共通項もあればそうじゃない部分もありますよね。

出会いとチーム力

小:共通項といえば、まず人との出会いを大切にすること。さらには、チームを非常に大事にしていることでしょう。食事をする店選びの大きなポイントって、店の主とその人のチームが織り成す面白さやと思うんです。美味しさも含めて、「おもろかったわー!」と思えるお店やないと。「祇園 さゝ木」へ行くといつもそう感じます。僕の場合、親方と親密になる以上に、スタッフたちと仲良くなることが多いですね。

佐:ウチのスタッフら、めっちゃ可愛がってもらっていて、ほんまに感謝してますわ。調理場に入ったときにね、光っている子っているんですよね。そういう子らをやっぱり大事にしたいと思いますよ。

小:スタッフたちと仲良くなれる店じゃないとアカンと思うんです。佐々木さんとこの二番手をはじめ、親方のDNAを受け継いでいる子っていうのは、種を撒くと開花させる可能性が非常に大きい。彼らが今後、どのように成長するかが僕には見えるんです。そこにエールを送るのが楽しくて仕方ない。スタッフたちは親方イズムをね、吸い取り紙のようにどれだけ吸収できるかなんです。人によって成長は違うけれど、親方みたいになりたいと思っている子たちのエネルギーってほんとに凄い。チームって今からの時代、必要なことの要素がすべてあるように思いますよ。味だけでない店の魅力、といえば「人」に行き着きつく。そこですよね、僕たちが重要にしていることって。

佐:「チームの力」って凄く大事やね。

小:ほんとにそう思いますよ。そしてチームって温かい。それってお客様にもリアルに伝わるじゃないですか。

佐:そうすると、店はどんどんステップアップできるよね。ところで、チームを束ねていくために小山さんが大事にしてることって?

リーダーに必要なものは
ニュース性と対峙

小:常にニュースのある人間であること。それはお客様にもスタッフにも。
「こいつオモロいヤツやな」って日々頼りにされる、ニュース性のある人間
になるためには努力あるのみ。じつは昨年、フランス発のショコラの祭典
「SALON DU CHOCOLAT(サロン・デュ・ショコラ)」に初出展し、
「C.C.C.(クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ)」の品評会で最高位を
いただいたとき(※1)、指揮者の佐渡裕さんから一通のメールが送られて
きたんです。佐渡さんが長年の夢であった、世界有数の名門オーケストラ
「ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団」で初めて指揮をされたタイミングでした。
佐渡さんが言うには、「お互い世の中のために、50代を目前にして努力をやめたら
いけない立場になれたのは嬉しいよね」と。

佐:それ、素晴らしいメッセージですね。

小: 50代になったらある程度、器用にできてしまうじゃないですか。
でも、改め努力をしないとここから先へは進めない。
「そんな人生にお互いがなれたことにブラボー!」って。

だから、自分がニュースを作れる人間であることを、スタッフたちに見せる義務がある。「おまえ、オレのことを憧れろや!」といっても、それはおかしいでしょ(笑)? あのオッサンみたいになりたいって思ってもらえるような人であり続けたい。例えば、佐々木さんのところのスタッフも、どこか「親父みたいになりたい」って思っているから、皆が似てくるんです。

佐:まったく同じです。スタッフに対して常に考えているのは「向き合うこと」。対峙してアカンかったときは腹を割って話し合い、その日中に全て終わらせてしまう。翌日には絶対に残さないというのを、ずっとやり続けています。もうひとつあってね。僕自身が常に忙しくしていること。もちろん余裕の時間は欲しいですよ。でも、「親父、遊んどるで」とか「親父、携帯繋がらへん」など、あれはダメやと思うんです。「俺がこんなに頑張っているからお前も頑張れ」。その思いが二番手に、またその下のスタッフたちにも伝播していく。親父ってそういう存在やと思うんです。

小:共感しますね。親父が一番忙しいんであって、そうならないと店は成り立たない。

リスペクトし合う
ふたりのシェフの相違点


佐:共通項、多いね。逆に僕たちが決定的に違うところって何やろうね。
僕がね、小山くんのことを羨ましいと思うのは、砂糖何g、小麦粉何gと、
お菓子のレシピをしっかり決めておいたら、店から出られることやね。
僕は絶対、店に居てないといけないから、そこは羨ましい。

小:それ、よく仰いますよね。佐々木さんに食事の約束を取り付けるのは
ホントに大変ですわ(笑)。僕が思う、ふたりの違いって、京都の文化的知識。
僕、京都生まれなんですけど、19歳までしか住んでいません。
だから、京の文化をもっと勉強しないといけない。それって、京都の料理人さん
から教わる機会が多いじゃないですか。佐々木さんの場合、あの祇園で商売を
されているというのが凄いなと。味だけではなく人付き合いのなかでも、
“今の京都”を知っておられるし、堂々と付き合われている。それが僕にはない、
佐々木さんの凄さです。祇園という地で、どしっと構えて商いをされているのが
本当にかっこいい。「お兄ちゃ〜ん」っていう感じで憧れているところです。

佐:あまりドシッとしてへんけど(笑)。

小:よう言いますわ(笑)。僕が2年連続、世界で評価されたのも、佐々木さんと出会えたおかげなんです。日本人である僕が、ショコラを介して日本のよさをどうアピールすれば、伝わるのか。そのためには、京都で生まれ育った僕だからこそ使いこなせる素材を選ぶべきだと。そして味以外、たとえばお椀や設えなんかもそう、もっと京都に、佐々木さんに学ぶべきところはいっぱいあるなって。それに、クリエイションした作品を、佐々木さんに「これえぇやんけー!」って言われるとすごく自信になります。そんな、日本人として、京都人としてのDNAを突き進めることにより、ヨーロッパの人にできへんことがもっと、内面から出せると思うんです。日本人である我のことをまず知らないと、グローバルに勝負できへんのとちゃいますかね。そう感じます。

佐:嬉しいこと言うてくれるなあ。ところで小山くんは、出会った人を大切にして、どんどん広がりを見出してるじゃない。それって小さいときから?

いかに自分のポジションを確立させるか?

小:ひとつめの転機は小学校3年生でした。その頃、京都・五条は西本願寺の近くに住んでいました。五条は路地の街。長方形である路地を活用しないと面白くないんですよ。泥団子をどこに隠すか?など、路地という抑制された場所でいろんなことを発明していく。夏休みになれば母の田舎に預けられ、大自然のなかに放たれて、普段できない遊びをする。夏休みが終われば、次の里帰りを楽しみにまた路地で遊ぶ。当時、めちゃくちゃ大人しかったんですが3年生のとき、伏見区の淀に引っ越したんです。転校生やから、ちやほやされるじゃないですか。「お前、学級委員になれや」とか。なんだかこれ、今までと違って好きかも? と思い始めたんです。でも、転校生の力の有効期限があるような気がした。「たぶん、一学期間しかもたない。何もしないで落ちぶれていくのは寂しいから俺、頑張ろう」って、いろんなことに頑張り出したんです。例えば、大きい声で喋って中心人物になるよう努力をしたり。ちょっと性格が変わったんです。それがまず、最初の転機ですね。

佐:その年で、そんなことを考える小山くんが凄いね。長方形でなんとかせなあかん、というのも面白いな。

小:長方形とはまた違う、秘密基地作りも好きでしたね。穴や、人が入れるちょっとしたスペースさえあれば、秘密基地ってできるじゃないですか。家に持って帰ったらオカンに怒られるようなガラクタだけど、自分にとってはめっちゃかっこえぇなと思う物を秘密基地に隠す。それをチェックしに行く。路地と秘密基地の往復でしたね。だから今、秘密基地がテーマのショコラショップ(※2)を作っているんです。

世の中に役立つ
オリジナリティ=我流


佐:2月オープンですね。小山くんの幼少時代の記憶がもの凄く今に続いている。空間とか状況で、いかに自分のポジションを、楽しみも含めて作っていくか?
小:そうなんですよ。スタッフにもよく伝えるんですけれど、まずは「己を知る」ことなんです。強みも弱みも含め、まず自分を知っている人のほうが、対策も練れるし、どこでどう努力すればよいのか、攻めるべきなのかも分かる。今って本当にモノが溢れすぎている。そのなかで「唯一無二」を目指そうと思ったら、自分を表現できないといけないじゃないですか。ビジネスパーソンの場合、自分でエンジンをかけて堂々としたクリエイションができる「15%の人」と、それについていったり真似をする「85%の人」の二極化になっていると思うんです。85%のほうにはなりたくないですよね。でも、子どもの頃からの経験を活かせないと15%には居れないと思うんです。

佐:子どもの頃の経験って、けっこう記憶に残っているしね。ちなみに、15%と85%の割合はどこから?

小:よく組織には「262の法則」があるといわれています。2割の仕事ができる人、6割の普通の人、2割の仕事ができない人。今はもう、6と2の境目がなくなってきていると思う。厳しい目でみると10%と90%かもしれないけれど…。15%と85%というのは、いろんな方と出会うなかでの感覚ですね。

佐:僕はそこまで、考えたことないな。どちらかといえば何でも体当たりのタイプなんで(笑)。

小:それこそ、僕が言う15%の人のタイプですよ。

佐:クリエイションと真似って言葉が出てきたけれど、これも微妙なところ。なかなかのオリジナルって、そんなに簡単に生まれるものでもないと思うし。僕ね、「これ、パクらせていただきました」ってよう言いますけど、ほんまにパクッたらアカン(笑)。「きっかけ」ですよね、料理にしても何にしても。

小:そうなんです。パクりではなく「気付き」やと思いますよ。

佐:例えば、その切り口からして、僕やったらこうするのにな。そこを変化させて自分の料理にしてしまうのは、全然アリでしょう。

小:それは全く、真似じゃない。要するに、インプットをどこに持つかの話なんです。日々のなかで感じる「おやっ!?」っていう発見が多い人のほうが強い。結局、真似っていうのは、そのインプットが何なのか分からない人がやることで、インプットをアウトプットに変換するクセがついていない。だから、完成したものを何のアレンジもなく使ってしまう。

佐:ヒントですよね。どれだけ力を出せて、自らの料理にしていけるか。

小:「エスコヤマ」が発行しているセルフメディア誌「FuKAN」の、今回の対談テーマが「我流」なんです。昔はいい言葉で使われてなかったんですけど、「世の中に役立つ我流」ってあると思うんです。僕には師匠がいました。修業させていただいた「スイス菓子ハイジ」の故•前田昌宏社長です。師匠からお菓子作りは学んだことはないのですが、「堂々と生きよ」とか「アイデアをずっと持ち続けないとあかん」って言われ続けていましたね。結局、「我流」の根源はそういうことなんですよね。

佐:我流ってふたつあるよね。今、小山くんが言うていた概念と、とんでもない我流。

小:分かります。後者にならないために何が必要って「技術」。そして、俯瞰して物事を見ることができる「調整力」。

佐:そして我流の人間は、失敗をどれだけ重ねられるかやね。例えば、「ニンジンはこうおろすんやで」と先輩に言われたとするでしょ。へぇ〜と思っていても、俺がおろしていた方法のほうが、教わったもの以上に上手いこといったら「我流」として成立する。どうしてもアカンものは失敗。「いかに見極めるか」やね。僕、一番嫌いなパターンは、何でもかんでも本を見て「これはこうすんねんや」って実践するヤツ。発想の風船が膨らまへんでしょ。

小:最終的に「クオリティの高いものを作る」という部分さえブレなければ、そのプロセスは我流のほうがとても可能性がありますよ。僕、佐々木さんの料理を食べて、ハッと思いつくことがよくあるんです。「パクる」って、佐々木さんは冗談まじりに言いはるけどそうじゃない。佐々木さんのフィルター、そして見極めがあってこそ料理が完成する。そして佐々木さんの料理を、僕はお菓子に変換させていただくんです。例えば、「ふきのとう味噌」を味わい、これをショコラにできないかと考え、ふきのとうを使ったミルクチョコレートを作りました。「味噌」を「ミルクチョコレート」に変換し、バシッと成立したんです。そして「ふきのとう味噌」って味噌の甘みのなかに苦味が成立しているじゃないですか。「これや!」と直感しましたね。じつは、「サロン・デュ・ショコラ」の「C.C.C.」品評会は、ビターチョコ部門ほか5部門のチョコレート審査があるんです。その「ミルクチョコレート部門」の作品において、今までなかった「苦味」を持ってきたんです。

佐:審査員にインパクトを与えるだけでなく、ミルクチョコレートのカテゴリーの幅が広がったわけやね。

日本のほんまもんを
世界に伝えるための仕掛け


小:そうなんですよ。じつは面白いエピソードがあって、「サロン・デュ・ショコ
ラ」の250人の参加者のなかでトップ10名ほどの受賞者は、出品する5種類のチョ
コレートのなかに必ず、和素材を使っているんです。必須じゃないんですよ。
でも、彼らは今すごく迷っているように思うんです。「和素材を使ったら、審査員
は斬新だと思う」という考えのもと使っている。そんな出展者のなかで、フランス
修業経験のない僕が、ふきのとうや酒粕、純米吟醸酒や金ゴマを使ってエントリー
するとは思わなかったでしょう(※3)。
今の時代、日本の感覚が少しあればなんとなくいける…、というレベルからさらに
上の段階にきていると思う。

佐:これが10年前だったら早かったでしょうし、5年前でも少し早かったかも
しれないね。


小:まさに今ですよ。ヨーロッパのパティシエたちと話をしていても、ものすごい和食に興味を持っています。僕はたまたま、時代が良かっただけだと思うんです。ちょっと前だったら、最高評価は絶対にいただけなかった。先輩方が地場固めをしてくださって、佐々木さんをはじめ和食料理人の皆さんが日本を認めさす努力をしていただいたから今、準備が整ったんです。佐々木さんがフランスでプレゼンテーションされる際は、そこを気付いてない人にぶちかましてほしい。

佐:パリで店を出すんやったら、まずは日本の食材をきっちり、丁寧に使ったほんまもんの和食を出したいね。「和食とはこういうもんやで!」っていうのを。現地の食材を使うこともあるかもしれないけれど、日本で作られた季節ごとの食材をちゃんと使いたい。向こうのダイコンで勝負する気は全くないですよ。やっぱり日本のダイコンは旨いですから。そうじゃないと中途半端に和食が伝わるような気がして。そのなかで現地食材を使って、僕の得意分野である「遊び」の一品を作りたいですね。

取材日:2012年12月17日




(※1)「SALON DU CHOCOLAT(サロン・デュ・ショコラ)」とは、パリで毎年開催されている世界最大の祭典。フランス、ベルギーなどショコラの本場はもちろん、世界各国からトップ•パティシエたちが集結する。「エスコヤマ」は2011年より2年連続出展。その期間中に開催される、フランスで最も権威のあるショコラ愛好家「C.C.C.(クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ)」品評会にて、「エスコヤマ」は2年連続で「星付き5タブレット」という最高評価を獲得。また、「C.C.C.」とサロン・デュ・ショコラ事務局の合同審査によって選出される「外国人部門最優秀ショコラティエ賞」も同時受賞し、2年連続W受賞という日本人初の快挙を達成する。

(※2)2013年2月、敷地内に新ショコラとリー「ロジラ」をオープン予定。名前の由来は、「路地裏×ゴジラ」。小山シェフの幼少時代の遊び場であった路地裏、そして、小山シェフと同年代の誰しもが子どもの頃、夢中になっていた象徴的な存在=「ゴジラ」からインスピレーションを受けた理想郷。施工には、子どもの頃に秘密基地を作ったときの、土や木などの材料を使用。国内はもちろん、海外で活躍する左官職人・久住有生氏率いる、全国のトップ左官職人が壁塗を担当。

(※3)「C.C.C」エントリー作品5種に、ショコラでは意外性のある和素材を駆使した。コロンビアのカカオ豆のみで作った、エスコヤマ・オリジナルのクーベルチュールを使用した「L'aube ~夜明け~」にはじまり、ふきのとうを使ったミルクチョコレート「Fukinoto」。3品目は、国産の金ゴマのプラリネを使った「Praline Japonais」。そして4品目の「Sake Japonais」は、下層に酒粕キャラメル、上層には純米吟醸酒を駆使したガナッシュを使用。さらには桜のチップを燻し、その香りをチョコレートにうつした「NINJA~忍者~」。

(ショップ情報)
パティシエ エス コヤマ
http://www.es-koyama.com/