京都、八坂通の京料理、割烹 祇園 さゝ木

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佐々木浩×本郷義浩

佐々木浩が、各界の著名人を迎えて対談を繰り広げるシリーズ「人に味あり 味に人あり」。
今回のゲストは、MBS毎日放送「水野真紀の魔法のレストランR」のチーフプロデューサー本郷義浩さん。
佐々木は現在、同番組のコーナー「SUPER HERO'sレシピ」に出演し、
公私にわたり20年来の親交を持つふたり。
料理店の主、そして番組プロデューサーとしての立場で「伝える」ということとは?
さらには指導者としての統率力に至るまで
チームリーダーならではの対談が繰り広げられました。





2人の出会いは?


佐々木(以下、佐):かれこれ20年くらい前ですよね。

本郷(以下、本):「祇園 さゝ木」がこの場所へ移転する前の前。カウンター6席の店に伺ったのが最初の出会いです。述べ100回以上、お店へおじゃましています。

佐/テレビのロケでは、パリに3~4回、香港やロンドンにも一緒に行かせてもらってますね。考えてみると、公私ともに長い付き合いをさせてもらってます。本郷さん、今日はまずチームリーダーとして「伝える」ということについて、本郷さんの考えをお聞きしたいです。

料理を、メディアを通じて「伝える」ということ。


本/「祇園 さゝ木」へおじゃまし、常に感じていることがあります。佐々木さんはいつも「美味しかったより、“楽しかった!”という言葉が嬉しい」と仰っておられますよね。それって、皿の中のクオリティはもちろんですが、カウンターの隣に座っているお客さん同士が、いい関係であることが大前提。さらには。カウンター内の料理人と、カウンターに並ぶお客さんが良好な関係であること。両者が成立して初めて、また来たいと思わせる楽しさが現れるのだと思います。料理店とは、人と人とが出会う場所。それがないと、単なる無機質な、冷たい風が吹く食事になりますから。

佐/お客様は「元気をもらったわ!」お帰りになられます。とても有り難いお言葉ですね。「楽しくって、元気になれる」って「祇園 さゝ木」独特のカラーだと自負しています。そのようななかで、お客様に料理を通じて「伝える」ということとは? 日々思っているのは、美味しさを伝えるのは料理人の宿命。それだけでなく、「祇園 さゝ木」のスタッフ全員が一生懸命、仕事をしている姿を伝えたい。そこに料理の感動が重なり、時間が流れていくというのが理想です。

本/佐々木さんは常にパワフルで元気。食べ手はそこに感銘を受けます。1年365日、人間ですからしんといどきや辛いこともあるでしょうが、18時半の食事一斉スタートの際には「よっしゃいくぞ!」という気迫を感じます。僕ら客は、そんな佐々木さんに「気」をもらっている感覚を受けるのです。京都の店、とくに割烹や料亭などには、気をもらいに伺います。直接的と間接的、両方ありますが、前者なら「この平目旨いな。なるほど、こう隠し庖丁が入れられているのか」といった、料理のちょっとした背景を感じ取ること。後者は庭の設えや光の入り方など和の美意識です。それらを感じ、学び取るには食べ手の感受性の高さも必要ですが、僕はその両方の「気」をもらいに来ています。

佐/伝えることも重要ですが、それを感じ取るアンテナも必要なのですね。ちなみに本郷さん、テレビの映像で美味しさを伝えるために工夫されていることは?

本/「本当に美味しそう…」と視聴者に感じて頂けるのは、リポーターや出演者の表情です。だって、実際に料理を食べてみないと味そのものは分かりませんから。ですから、料理人の気合いが入った美味しい料理は食べると元気に、そして楽しくなるということを「リアクション」を通して伝えないと。MBS毎日放送「水野真紀の魔法のレストランR」のコンセプトは“料理を通じて幸せを伝える”。食卓の中心に炎があり、炎が食材に魔法をかけて料理となる。魔法をかけているのは料理人であり、その一連のプロセスを伝えたいのです。

佐/そのコンセプトは共感できますね。そして料理の映像も美しいですよね。焼肉特集の場合、肉を焼いて、食べて、美味しいというリアクションの繰り返しですが、本当に旨そうな雰囲気が伝わってきます。

本/結局、雑誌よりテレビが圧倒的に強いのは、ムービーで動きを伝えられることです。AからBへの変化を伝えるのが「シズル感」になるのです。たとえば、椀物から湯気が立っていたり、半熟卵がとろっとしていてテカりが美しかったり。焼肉の場合は、肉そのものにちょっと焦げが入る瞬間に、ひっくり返す。その一瞬が「シズル」なんですよね。

佐/なるほど。でも、カメラマンやディレクターのセンスも問われますね。

本/テレビは動きを秒単位で伝えることができるので、腕利きのディレクターは最高の一瞬を逃さず、肉をひっくり返すことができる。その瞬間、肉汁がじゅわりと広がり、煙も程よく立ち上がり、美味しそうやな、となる。しかし、その一瞬を逃すと、焦げすぎてるやん、とあからさまに映像として残ります。
じつはカメラの角度によるテクニックもありまして。僕たち人間は、45度の角度で物を見ています。映像も45度がスタンダード。そこで、グッとカメラの角度を落としてみる。すると見慣れない画角なので、視聴者はハッとなるのです。たとえばハンバーグにナイフを入れ、肉汁が溢れ出る瞬間を真横から撮ると、普通の目線ではないためインパクトが強くなります。これはテクニックのひとつですね。もちろん料理を作って頂く料理人さんのお力も必要ですが。

佐/料理人にとって「美味しさをいかに伝えるか?」とは。
僕は、“その食材がなぜ美味しいのか、ポイントをお客様に説明しなさい”と常々、スタッフに伝えています。たとえば、今日お出しする平目の身と縁側がなぜ今、おいしいのかを伝える。それはどんな場所で獲れたのか?あるいはサイズだったり、寝かせ方だったり。舌はもちろんですが頭でも理解して頂くための伝え方を大切にしています。

本/「祇園 さゝ木」のお食事の一皿目は、一斉に提供されるじゃないですか。あれでスタッフも食べ手も呼吸が一瞬にして揃います。本当に気持ちいい瞬間です。劇場で観客と演者の呼吸が一斉に揃うイメージ。まさに「佐々木劇場」ですよね。

佐/本郷さんが「佐々木劇場」の名付け親ですから。今や他媒体をはじめ、ミシュランガイドブックでも、その名が出ています。

チームリーダーとしての2人ならではの個性。


佐/「水野真紀の魔法のレストランR」の収録で、MBS毎日放送のスタジオへ入らせてもらうと、制作スタッフは皆、イキイキと目が輝いている。素晴らしいと思いますよ。だから、収録でカメラを向けられたときにホッとするんです。「菊乃井」村田吉弘さんみたいに、収録に慣れていたら良いのですが、慣れない場所はやっぱり緊張するじゃないですか。でも収録中、制作スタッフが「バッチリ!」って笑顔で合図を送ってくれると、「あぁ良かった~」って安心感が生まれます。全スタッフが、自分たちが作る作品に愛を持って接しているなと、つくづく感じますよ。
じつは本郷さん、そんなスタッフたちに事あるごとに聞くことがあるんです。「本郷さんて怒ることあんの?」って(笑)。

本/怖いと思われているでしょう。スタッフ、そう言ってませんでした?

佐/そうなんですよ。めっちゃ怖いって(笑)。怒りにはなかなか到達しないけれど、そのラインを超えたら本当に怖いって。

本/僕、感情的にはなれないんです。だけど駄目出しは容赦ないですよ。仕上がりが良くなければ、チーフディレクターにとことん言います。でも本人のことを叱るのではなく、自身が作った制作物に対して言うわけで。クオリティ管理という面では、全スタッフにシビアです。

佐/だからトップになれた、そして番組のクオリティが下がらないんですよね。

本/佐々木さんと業界は違いますが、佐々木さんは当然、ご自分で刺身を引くわけで。テレビ業界のプロデューサーの場合、番組を作ったことがなくても他部署(たとえば管理職)から移動してきた社員もプロデューサーにはなれるのです。でも彼らは、自身で刺身は引けないんですよね。
一方、僕らはアシスタントディレクターの経験もある叩き上げのスタッフですから、技術面やクオリティに関して、部下に負ける気がしない。「腕は負けない」というのがチームリーダーとしての強み。もちろん、負ける部分もあるんですよ。例えば、タレントをうまくのせて冗談を言い合い、楽しく演出するというディレクターもいる。でも、自分の仕事に関する根底に関しては誰にも負けないという自信がある。

佐/分かります、本郷さん。僕は弟子たちに「教えられる人間になりなさい」と常に言います。たとえば刺身を引く際「この庖丁の角度があかんから美しく引かれないんや」と伝えられる人間になりなさい、と。教えられない人間は、自信がないから伝えることができない。ですから、お客様が帰られた後や、仕込みのときは、僕が持っている技術をとことんさらけだし、教えます。怒ることも多々ありますが。たとえば、営業が始まれば、「お客様のお茶が減っているのに、その前を素通りするな!ビールを飲み終えておられるのに、“次、何いたしましょう?”と何で言えへんのや!」と。僕らの商売はお客様ありきですから。そこを軽視するような態度を見たときは、裏の厨房でとことん叱ります。
でもスタッフを「のせる」ことも僕らの仕事だと思いません?

本/確かにそうですね。

佐/カウンター内で、「今日はお前が料理の説明をしてみい。美味しそうに説明せーよ!」と、お客様の前で伝えます。そのひと言でスタッフは「一生懸命、説明せんとあかん」と気合いを入れて説明しますが、「お前、今日は70点やな」と言って、お客様の笑いを取り、スタッフを喜ばせる。叱ることもあれば、のせることもある。この“さじ加減”って大切ですよね。

本/スタッフがなぜ、佐々木さんについて行くかというと、佐々木さんの「いい料理を出したい、最高の店にしたい」という“信念”が強いからだと思います。僕の話になりますが、「いい作品を作りたい、いい番組を作りたい」と、強い信念を自分は持っていると思います。だから、ついて来ないんだったらいいよ、でも強いタイムラインからは外れてしまうよ、と。「祇園 さゝ木」というのっている店で、大将の魅力にのっかっていきたい。そう思わせるのが佐々木さんの人間力なのでしょう。

孤独と戦うチームリーダー


本/でも、チームリーダーって根本は“孤独”ですよね。

佐/トップになればなるほど、孤独になります。

本/結局、番組の方針や視聴率を上げるための戦略は、人の言うことを聞いて実践したら後悔すると思います。まぁ、人の言うことを聞いたことがない僕が言うのもどうかと思うのですが(笑)。自分の決めたことを、信念を持ってやっているわけですから、人に惑わされたくはない。でも、視聴率が悪かったとしても、誰に相談することもできない。

佐/トップは愚痴が言えませんね。愚痴をこぼしたら、それは悪口になる。だから腹に全部おさめるんです。トップは本当に孤独だと思います。

本/孤独だからこそ浮かばれることもあるのですが。逆に、孤独じゃないトップは“弱い”と思うのです。強い人間は、孤独を楽しんでいるというか。佐々さんもメニュ―考えるとき、孤独でしょう。でも、リーダーは、孤独をとことん楽しめばいいのです。じつは、大変なスケジュールのロケのとき、家族から「楽しんで!」とメールが来ました。そしてふと、楽しめてない自分が、そこにいることに気付いたのです。時間通りにロケができるかな、とか懸念事項もたくさんあって。でも、ロケの現場って、じつはクリエイティブで楽しい場所なのだと、改めて気付かされました。

佐/自分をプラス思考にもっていくために「とりあえず楽しもう!」ですか。いいですね。“孤独を楽しむ”という発想が、今まで僕のなかになかったです。本郷さん、その考えを早速頂きますよ。

(本郷さんプロフィール)
本郷義浩(ほんごう・よしひろ) 
毎日放送プロデューサー。早稲田大学第1文学部を卒業後、88年毎日放送に入社。以来、「真実の料理人シリーズ」「伊藤若冲増殖する細胞」「近畿は美しく」「京都知新」「音舞台シリーズ」「ラーメン覇王」「ビビビのB級グルメ覇王」「あまからアベニュー」「水野真紀の魔法のレストランR」などドキュメンタリー、アート、京都、音楽、バラエティー、料理情報と幅広いジャンルの番組を制作。海外でのテレビ賞受賞は30を超える。番組関連で取材した飲食店はのべ1万軒、プライベートでの食べ歩きも1万軒以上に達している。近年では世界でただ1人の“麻婆豆腐研究家”を名乗り「麻婆十字団」を結成、様々な活動を行うほか、「油断大敵教会」「超アヴァンギャルド食卓の騎士団」「秘密の美食倶楽部Q」「偏愛カフェ」などユニークなネーミングの食事会を多数企画し、年間3000人以上を集客している。堀江貴文さん主宰のグルメアプリ「テリヤキ」のキュレーター、テリヤキストの一人。『あまから手帖』にコラム「月間麻婆豆腐」連載中。著書に『うまい店の選び方魔法のルール39』(角川書店刊)、『自分をバージョンアップする【外食の教科書】』(CCCメディアハウス刊)がある。
http://honp.info/eating-out/