葉月の椀 第8回

「すずきの花火仕立て」


「冬瓜」という野菜がある。冬の瓜と書くが旬は夏。
収穫は夏だが、冬まで保存がきくことからこの名前が付けられたという。
したがって夏の料理に冬瓜を使うことが多い。
同時に「すずき」は日本では夏の魚である。
フランスでは冬の魚と認識されているようだが、かつて日本の夏では「すずきのあらい」というのが夏を代表する料理でもあった。
「あらい」とは氷水で魚を洗うこと。
なぜ洗いが必要なのか。
すずきは白身特有の泥臭さが少しあり、それを取り除くことが目的である。
しかし単に洗い流せばいいというのではなく、あまり洗いすぎると旨味が逃げてしまう。
すずきの持ち味を生かしながら余分な匂いや脂分を抜き取るのだ。
この魚に対する考えは、日本とフランスでは大きく異なり、それを比較しながら味わうのも楽しいことだ。
そこで「祇園さ々木」8月の椀は、「すずきの花火仕立て」である。
夏の魚、すずき。
骨から身を外す。
身はくるりと巻く。
そこに粉を打ち、昆布出汁に酒を加えた出汁の中で軽く火を入れる。
するとすずきはまるで花が開いたような形となる。
じつは出汁と酒を合わせる手法は「あらい」の時にも用いられることがある。
冷水に酒を加えることで、より匂いを押さえる効果がある。
ここでもその手法が取られたわけだ。
そのすずきを椀に置き、そこに冬瓜を添え、出汁を張る。
ふくよかな香りとふんわりしたすずきの食感。
出汁の味わいと次第にすずきの脂分や旨みが溶け込み、喉をうならせる椀物ができあがる。
飲み終えたときの満足感にはしばしうっとりしてしまう。
またこの椀には、「花火」という夏の風物詩がしっかり刻みこまれているのだ。
夜空に舞う一瞬の煌めきと文様。といいながら、京都の街なかでは歴史的建造物が多く、花火を打ち上げることが難しい。
ならば佐々木は、椀にその花火を刻み込もうと考えた。
外は琵琶湖の雄大な花火をモチーフとした。
また蓋をとったとき、裏側に広がる花火は大阪・PLの勇壮な姿を写しこんだのである。
まさに「祇園さ々木」のカウンターで関西の夏を存分に味わっていただきたいという
佐々木の気持ちが、こういった姿となった。