文月の椀 第7回

「鮑の柔らか煮と加茂茄子揚げ煮うすくず仕立て」


京都の7月は祇園祭である。通常は14日から16日の宵山、17日の山鉾巡行などがハイライトである。
しかし正式には八坂神社の祭礼であり7月一ヶ月間にわたりいろいろな神事・行事が執り行われる。
また七夕もこの季節であり、七夕と梶の葉は深い結び付きがある。
平安時代の書物には「願い事を梶の葉に書く」という記述が残っており、七夕の行事ともいわれている。
またお餅を梶の葉にくるみ屋根に投げると願い事がかなうという習慣もある。
佐々木は「僕は小さい頃、たらいの中に梶の葉を入れる。
それは水に月を映し願い事をするといい、と聞かされていました」と話、今月の椀には梶の葉が用いられた。
日本の料理は常に季節の移り変わりと密接な関わりを持つ。
食材的には鮑が旬を迎える。
「祇園さ々木」にとって鮑は、冬の蟹と同じぐらいに食べ手の期待が集まる逸品である。
豪快に焼き熱々を切り分ける鮑に、みんなは驚嘆の声を挙げ、じっくり蒸した鮑の食感と香り高さにうっとりとするのだ。
その鮑を佐々木は椀に盛り込んだ。
「鮑は昆布を食べているでしょう。だからたっぷりの昆布と酒と水でじんわり熱を加えてゆくのです」と。
鮑に再び栄養素を与えるのだ。
加茂茄子も京都の夏には欠かせない食材。
みっちり実の詰まった加茂茄子は揚げて八方地につけて味わいに深みが加えるのだ。
ずいきも乾煎りした米と一緒にすることで香ばしさを出す。
椀物に一番出汁、鮑を蒸した昆布の利いた出汁、加茂茄子の八方地、ずいきから出る香ばしい出汁と
4種類の出汁が同居することで、ひとつの優艶な世界を作り上げてゆくのだ。
まずは出汁を口に含む。じんわりと旨味が広がり、そこからそれぞれの食材に歯を入れるごとに
異なる出汁とその持ち味が滲んでくる。一口ずつ変化を楽しめる7月の椀である。