水無月の椀 第6回

「牡丹鱧」


日本の6月は梅雨である。これは梅の実が熟す頃に降る雨のこと。
その雨を受け、つややかな色合いで咲くのが紫陽花である。
紫陽花と梅雨、これぞ6月を象徴する光景だ。
この梅雨時の雨水を飲んだ鱧が美味しいとされる。夏の魚である。
鱧は、いろいろな食べ方がある。
さっと炙って梅肉もよし。湯引きという調理法も独特だ。しゃぶしゃぶも美味だ。
今月の椀は「牡丹鱧と汲み上げ湯葉 玉子寄せ」。
牡丹鱧と名前がついた。
これは、鱧の骨切りから始まる。皮を一枚残し、鱧の骨を切ってゆく。
理想的には一寸(約3センチ)に24から25の包丁目を入れると、とても柔らかな口当たりになるのだ。
佐々木浩は、慎重かつリズミカルに鱧の骨を切ってゆく。微かに「ザクザク」と聞こえる音の響きもごちそうの一つである。
昆布だしの中にくず粉を打った鱧をほんの2・3秒くぐらす。
一気に身が開き、その姿が牡丹の花のように見えるので「牡丹鱧」という呼び方がついた。
そして鱧の骨と昆布で取った出汁と一番出汁を同量合わせた出汁のなかで30秒ほど入れ、再び鱧にその味わいを戻すのだ。
椀に鱧を置き、汲み上げ湯葉と玉子豆腐を添える。そこにタピオカを散らし、出汁をはる。
タピオカは梅雨の水玉を象徴し、玉子豆腐の柔らかな食感と、コクがとけ出した旨みは、ますます鱧の美味しさを高めてゆく。
出汁を飲み、鱧を口にふくむ。
一気にやや脂分を含んだ鱧の味わいが駆け巡る。そして無理なく、身がほどけてゆく。
よくぞ骨切りという技術を開発し、それを鱧の調理法として尊ぶ。これも日本の伝統芸といえる技である。
佐々木は椀の文様を紫陽花とした。
「梅雨の時期を表すのは紫陽花しかないでしょう。
その花を愛でていただき、椀を開けると牡丹の花が咲いているという趣向も面白いでしょう」と。
そんな遊び心も満載の6月の椀である。