卯月の焼物 第4回

「野菜の沢煮椀」


「春は苦味 夏は酸いもの 秋は辛味 冬は心して油をとる・・」
日本古来の食事法というか健康法を著した貝原益軒の「養生訓」にこのような一節がある。
また中国の故事には「春眠暁を覚えず」という言葉がある。
春の夜は短く、また気候もよいので、つい寝過ごしてしまう。という意味。
そんな春は、肝臓の季節ともいわれる。肝臓は解毒作用があり、その動きを活発にするのが、
苦味をもった春の野菜である。そう、春は苦味を、人間は欲しているのだ。
日本の春といえば桜と山菜。桜を愛でながら、佐々木浩の椀をいただく。
椀を開けると、内側に桜の文様が描いてある。それも夜桜。
「京都は円山公園に有名な枝垂れ桜があります。
もちろん昼間の美しさもすばらしいのですが、夜のライトアップされた綺麗さは格別やと思っています。
ですから、その夜桜を見ながら、お椀を味わってもらいたいと思っています」と佐々木浩は語る。
椀の文様に、佐々木の思いが毎月込められているのだ。
さて、椀種は春の山菜だ。
タケノコ、ふきのとう、こごみ、タラの芽、ゼンマイ、わらびなどが入る。
まずはタケノコを下処理する。歯ごたえを残しながら湯がく。
山菜類は、ほぼ同じ大きさに切り揃える。タケノコも同様である。
それらをすべて一番出汁の中に入れ、わずかの時間、出汁にその香りを移してゆく。
そして椀の椀種を盛り込み、最後にふきのとうの葉をかるく炙り香りを引きたせ、
それを盛って、香りの移った出汁をはってゆく。
椀を開けたときに広がる山菜の華やかな香り。
手元に寄せると、その香りが一層強くなり、春を感じざるを得ないのだ。
山菜類は、噛む毎にほろ苦さやかすかな青味や甘みが、口の中で幾つもの表情をみせる。
最後に喉をとおる出汁には、そんな味わいがしっかり残っており、春の醍醐味を満喫することになる。
大地からの恵みと出汁との融合が、これほどまでの季節感を演出するとは、まさに日本ならではの風情と呼べる。
いま、世界の料理の潮流は、苦味をいかに美味しく食べさせることができるかを考え始めた時代。
しかし、僕達日本人は早くから苦味に注目し、このような椀物を作ってきたのだ。
だからこそ冒頭の「養生訓」の存在をいまさらながらに偉大だと思ってしまうのである。