神無月の椀 第10回

「秋茄子の焼き茄子  蒸しスープ 松茸の香り」


今月の椀は、甘鯛の頭を一晩塩を当て、余分の水分を抜き焼く。
そこに昆布と干椎茸、酒3水7の割合で2時間蒸す。
これでベースの出汁を作る。
甘鯛、昆布、干椎茸という3つのうま味成分が凝縮された出汁だ。
そしてこの出汁に松茸のスライスをたっぷり入れ20分炊く。
椀には焼茄子、白ずいき、松茸、三度豆を置き出汁をはる。
椀の蓋をあけると、松茸の香りと出汁の馥郁たるかおりが鼻腔をたまらなく刺激する。
一口含むと、出汁の幾重にも押し寄せるうま味と椀種の味わいが見事なマリアージュを見せてくれるのだ。
そこで大きな役割を果たすのが焼茄子。焼き茄子の香ばしさが、出汁に溶け込み味わいに輪郭を与えるのだ。
だが、どこにも甘鯛の姿は見えず、その味わいの深さだけは口中から胃袋、また鼻腔へと残る。
なんとも贅沢な椀であることか。
一瞬、松茸が主役と思うが、じつはその背景には甘鯛、干椎茸などの食材が立派な後見役としてこの椀を支えている。
見えないものこそ大切にしたい。
またそこから何を感じるか。
それも含めて日本の美学がこの椀にはいくつもの物語が詰まっていることとなる。
椀自体もシンプルだが、中を開けると蓋の内側には八坂の塔に満月。
ここにも美しい京都の秋が息づいいているのだ。
しみじみとした味わいから、想像の世界が果てしなく拡がりを感じさせる。椀の楽しみである。