睦月の椀 第1回

「白子豆腐 餅に見立てて」


佐々木浩の碗は、出汁を引くことから始まる。昆布と鰹である。昆布は前夜から水に漬けておく。
そして朝から昆布を取り出し、温度を上げ沸騰するする寸前に削りたてのかつおをたっぷり入れ、香りを与える。
その味を見る時の表情に一瞬緊張感が走る。決まった瞬間、安堵の色が滲む。
1月は、新年を寿ぐ季節である。椀の中になにを入れるか。日本の正月は、雑煮だ。関東は切り餅、関西は丸餅。
佐々木はあるものを餅に見立てることにした。白子。鱈の白子を豆腐仕立てに作り上げた。
しっかり練り上げ、わずかながらの焼き色をつける。餅を焼いたような感覚となる。
それを椀に入れ、京人参、うぐいすなを乗せ、出汁をはる。目出度い印に金粉を散らす。
椀は、椿の文様である。
佐々木の椀は、本来内側に文様が施される。しかし、1月だけは客の前にその華やかさが伝わるように外の文様を選んだ。
蓋をとる。湯気とともに出汁の香りが鼻孔をくすぐってくれる。
まずは、出汁だけをいただく。
澄んだ味わいとコクが喉を通ってゆく。つぎの白子豆腐を食しながら、出汁を含む。
旨みがじんわり押し寄せてくる。飲み干した時、身体全体が、優しさを味わったような気持ちになるのだ。
毎月の献立を、佐々木は椀物から考える。
「椀がこけたら、すべてダメになるような気がします」
それほど、椀に対する思いは深く、かつ慎重である。じつは、17年前独立をした際、椀を供することが出来なかった。
椀を揃えるゆとりが無かったのだ。椀のない料理であった。
ようやく6個の椀を揃え、そこから椀への思いが深まってゆく。
「日本は12ヶ月あります。でも24節気で回っています。だから椀物も24種類揃えようと思ったんです」
著名な道具屋にお願いし、すべてが揃うまで数年の歳月を要した 佐々木の椀。
そこには季節感を尊ぶ日本料理の真髄があると同時に、料理人・佐々木浩の矜持がしっかり詰まっている。