長月の焼物 第9回

「スズキの皮ぱり 石窯焼き」

スズキは成長とともに名前が変わる出世魚である。
生後2年まで、20〜30センチはセイゴと呼び、
3年で40〜60センチはフッコとなり、それ以上をスズキと呼ぶ。
白身の魚で、日本では夏から秋にかけてよく用いられる。
「9月は夏の名残りですから、スズキと万願寺とうがらしを合わせてみました」
と佐々木は話しだした。
万願寺とうがらしは辛みがほとんどなく、甘く青っぽい香りがする。
初夏から初秋の野菜である。

まずは、スズキを三枚におろす。
軽く塩を当て、一晩寝かしておく。
そうすることによって身はしっとり、味わいが濃密になってゆく。

翌日、串打ちをしたスズキを石窯の中でさっと焼く。
石窯ゆえ一瞬にしてまわりから火が入ってゆく。

「中を半生状態で残すことが大事です。そうするとスズキのうま味がぐっと感じます」と。
万願寺とうがらしは湯通しをしてフードプロセッサーにかけ、
そこに昆布出汁と塩、薄口醤油で味を含ませる。

スズキを切るとサクッとした音が聞こえてくる。皮目のパリっと具合が見事だ。
音が聞こえてくる料理は、食欲を刺激する。
そこに万願寺とうがらしを乗せる。夏の朝を思わせる水滴や露など青っぽい感覚が蘇ってくる。
まさに「去りゆく夏の香りを愉しむ料理でしょ」と佐々木は話す。

横に塩焼きされた小さなコーンとトウモロコシのかき揚げを添える。
スズキは半生でねっとりした食感と味わい。そこに万願寺の夏の香りが加わり、
またトウモロコシの鮮烈な甘みと塩味が、夏の情景を思い出させてくれるのだ。
スズキ、万願寺とうがらし、トウモロコシというどちらかといえば、
夏が旬の食材を使いながら、夏の夜明け、夏の海水浴場や里山の風景などを想起させる料理となっていた。

改めて、料理の記憶は味わいだけでなく、香りから受ける影響が極めて大きいのだ実感した料理でもあった。
これも石窯という道具に出会って以来佐々木は、石窯を使い日本料理の中でどう生かすを考え続けている。
そこからスズキの瞬間にして皮目パリっと、中は半生という結果が生まれた。