水無月の焼物 第6回

「伊勢海老二種 老酒炙りとシャンパーニュ炒め」

「伊勢海老は一尾で二人前です。それも料理法を変えます」と佐々木はにっこり笑って話しながら、
伊勢海老をさばいていった。

伊勢海老を二つに割る。
頭から味噌を取り出し、胴体からは身をはずす。「ほぼ生と火を入れたものです」と。

手頃なサイズに切った身には味噌を乗せ、そこに老酒をかけ、バーナーで炙る。
味噌と身にわずかに火が入り、老酒の香りと甘みが増してゆく。
味噌の濃厚さと身のぷるんとした弾力と甘みがまるで手を握りながらスキップするように弾みがつく。
佐々木が言う「生」の本領発揮の瞬間ともいえる。。

続いて「火」を入れる。
大きな中華鍋に殻付きの海老を放り込む。
少し殻が色づいてきた頃、大胆にシャンパーニュを注ぐ。
「ここでケチったらあきません。シャンパーニュのきれいな香りが欲しいんです」
と佐々木はシャンパーニュを注ぐ手を緩めない。
すべてにわたり本物を求める佐々木の面目躍如である。

伊勢海老のシャンパーニュの香りが移ったところでオイルと海老味噌をたっぷり入れるのだ。
じつはそこに白味噌を混ぜる。次にわずかな砂糖と濃い口醤油を少し加える。
「これでコクがぐっと増し、伊勢海老に新たな生命が宿ります」とも。
そのなかにアスパラガスを入れ、さっと火を通す。伊勢海老、アスパラガスともに6月が旬の食材である。
半生の食感と味わいとは、別物の料理になっている。アスパラガスの爽やかで、サクッとした歯ごたえ。
伊勢海老は香りとコクがひとつの袋に入れられたようにまあるくまとまりをみせる。

どちらも本物だからこそたっぷり使うという佐々木の真骨頂である。
まず、半生を食べ、伊勢海老の命の尊さを知り、続く火入れで新たな生命の楽しさを知るのであった。

しかし思えば、伊勢海老と酒二種、あとはアスパラガスと調味料だけという構成。
シンプルながら、これほど異なる表情を作り上げる佐々木の発想と技にはいまさらながら驚いている。