卯月の焼物 第4回

「牛肉の塩釜焼き」

「祇園ささ木」を語るときに欠かせないのがカウンター内のピザ窯である。
季節によって、そこから生まれる料理がことなる。4月は、大胆にも牛肉で勝負だ。
まず和牛のもも肉は塩・コショウをして3日間寝かせる。そこで味が馴染む。

卵白と塩を合わせ、塩のペーストを作る。
それを下に敷き、桜の葉を並べる。そこに寝かせた牛もも肉を置き、桜の葉でくるむ。
仕上げに塩のペーストで全体を固める。これで準備は完成した。

あとは、ピザ窯に入れ表面がやや茶色を帯びるのを待つ。
全体からじっくり火が入る。つまり牛肉には優しく周りから
まんべんなく熱が伝わってゆくのである。
同時に桜の葉の香りが、しっかり牛肉に移る。
じつは、この香りが今月の料理には欠かせない。
4月を彩る桜を、香りで表現することになる。

火が入った塩釜は、お客さんの手によって豪快に割られる。
塩釜が割れ、湯気と共に桜の香りが漂ってくる。牛肉が顔を出す。
「カウンターの上で、割ってもらうのですが、これは場が盛り上がります。
お客さんも調理に参加しているという意識がうまれるのでしょう」と。

気分が一気に高まりを増す瞬間である。
焼きあがった牛肉を切る。
器に盛り付け、焼いた筍を添える。
ここでも季節感が開花するのだ。
桜と筍。
まさに日本の春を象徴する素材。

ソースがかかる。
牛すじにタマネギ、しいたけ、しめじ、酒、濃口醤油、砂糖を入れ炒める。
それをピュレ状態にして濾せば出来上がり。
牛肉のエキスと野菜の甘みなどがじつに上手く融合しているのだ。
そして木の芽をちらして「牛肉の塩釜焼き」の完成となる。

香り高い牛肉のうま味と木の芽の苦味が、じつにしっくりとくる。
そこに筍が加わることで、またこの料理に深みがうまれる。
春が近づいてくると、お客さんのほうから「あの塩釜は今年もやるの?」
というリクエストの声が聞こえてくる。
「祇園ささ木」の4月の焼物は、この「牛肉の塩釜焼き」が定番となりつつある。