弥生の焼物 第3回

「かにの身 甲羅詰め」

「かにも最後です」と3月の佐々木は話す。
11月初旬から始まった「祇園ささ木」の冬はかにがカウンターを盛り上げる。
生きたかにを佐々木は、お客の前で豪快にさばいてゆく。
炭火で炙ったり、締めのかにチャーハンはいまや名物となったほどだ。

3月の焼物はベシャメルソースを作ることから始まる。
鍋でバターを溶かし、そこに小麦粉を加える。
バターが溶け、小麦と一体となった頃にミルクをいれ、濃度をつける。ベシャメルソースの出来上がり。
そこにほぐしたかに身をしっかりまぜる。

つづいてかにの甲羅にベシャメルソースを流し、そこにかにの身をたっぷり加える。これで準備完了。
甲羅のままピザ窯に入れる。表面に焦げ目が付くと焼き上がりだ。
取り出して、温めたかに味噌をかける。
濃厚な味噌を少しずつかにと和えながら食べる。かにの身が持つうま味と味噌がからみあって、
焼きがに、蒸しがになどとも異なる味わいを創出することになるのだ。
ベシャメルソースと和えたかにに焦げ目が付くことで、香ばしさも生まれてくる。
「いろんな焼き方がありますが、グラタン仕立てにするのもいいと思います。
ベシャメルオースの焦げ具合も大切です」と佐々木は話す。

ピザ窯という佐々木のカウンターに埋め込まれた道具が仕事をする。
窯の中はすごい高温状態となる。かにの甲羅を包みこむように全体から火がはいる。
佐々木はじっとタイミングを図り「火が入り過ぎると焦げてしまい、
かに身もかたくなってしまいます」と。一瞬の火のまわり具合に気を注ぐ。
この窯の中を見つめる佐々木の視線は熱く、料理人の魂が燃えているのが分かる。
余人を寄せ付けない迫力があるのだ。

窯から取り出した瞬間、カウンターの空気感が一気に緩み、佐々木の表情にも笑みが戻るのだ。
これこそ佐々木の料理をライブ感を大切にしていることを体感するのであった。
あとは、かに身を食べるだけ。
春は、もうそこまでやってきている。
今シーズン最後のかにを食べる醍醐味と喜びを感じるのだ。
「来年まで、かにとはさようなら、ですから楽しんでください!」
という佐々木の言葉がまた胃袋を刺激する。