水無月の〆のご飯 第6回

「アワビの鍋焼きピビンパ」

夏の贅沢。
アワビである。
佐々木浩にとって、アワビは夏に欠かせない食材。
「火を入れたほうが磯の香りがぐっと出てきます。生より絶対に火入れです」と明言する。
炊き込みご飯や寿司など、何種類かの調理法がある。
「これから夏を迎えるダイナミックな感じを出してみました」と
佐々木が作ったのはなんと「アワビの鍋焼きピビンパ」だ。

もち米をアワビの出汁で蒸し上げる。米自体にアワビの旨みを乗せてゆく。
熱々の土鍋にアワビの薄切りを入れる。ジュッという音とともに香りが立ちのぼる。
そこに蒸し上げたもち米を加え、混ぜる。
それも鍋肌に向けてもち米をはりつけるように混ぜるのだ。
つまり全体から火入れをしようというテクニック。
白ずいき、ズッキーニ、加茂茄子、三度豆、新れんこんなどの野菜が入り、
アワビの肝で味を整える。肝はカツオと昆布の出汁で伸ばしてある。

「じつは、この肝、去年のもの。アワビ自体は夏がいいのですが、
肝は一年寝かしたほうが味わいが深くなります」と説明してくれた。
一年間寝かした肝が、アワビやもち米をコーティングすることで、
この料理の旨さがグッとレベルアップする。
仕上げの野菜は彩りと食感のプレゼントだ。
一口含むと磯の香りがまだ色濃く残っている。
まさに夏の海辺を思い起こすにあまりある香りと味わい。
夏の醍醐味を味わう楽しみを満喫。
時間の経過とともに、鍋肌に近いところは少しパリっとした食感が生まれる。
ピビンパとはよくぞ名づけたものだ。

目の前でこのプロセスが行われる。
つまり鍋の中で調理されるとうこと。
「アワビの特色を生かすには、どのような料理がいいかなと思って考えた献立です」。
音と香り、食感がどんどん変化し、食べる側の想像力を高めてゆく。
これぞ、佐々木浩の真骨頂といえるのだ。



食材の特徴を知り尽くし、それを最大限生かす料理法を考える。
そこにはジャンルという垣根を超えた凄みがありながら、
着地地点は和食の則を崩さないのが、佐々木の矜持でもある。