弥生の〆のご飯 第3回

蟹味噌たっぷりのチャーハン

蟹の解禁は11月初旬から、佐々木のカウンターでは生きた蟹が調理され、
コースの中でいろいろな食べ方が披露される。
蟹は、炭火で軽く炙って甘みを出す。
またときにはピザ窯の中で蒸し焼きにされこともある。
また、お椀に登場する蟹しんじょうは、まさに蟹の塊のようで、
他のしんじょうとは一線を画したものになっている。

3月に入り、春の調べが聞こえてくると蟹もそろそろ終焉を告げる。
その大団円は、締めのご飯「蟹味噌たっぷりのチャーハン」である。
かにをボイルしてさばく。
身をしっかり取り出す。
味噌もあますことなく取っておく。
準備は整った。

裏の厨房で佐々木は大きな中華鍋に立ち向かう。
熱々になった鍋に「よしっ!」というかけ声とともに卵が入る。
そこから一気に両手が動き始める。卵に火が入ったところで白ご飯が入る。
両者が馴染むと、恐ろしい分量の蟹の身が入る。
ここから一段と佐々木の動きは俊敏となり、
ご飯粒一粒ひとつぶに蟹のエキスをコーティングしてゆくのだ。
仕上げは蟹味噌である。これを多量に入れることで、
この蟹味噌たっぷりのチャーハンの味わいは、深みと奥行きを増してゆくのであった。

初めてこのチャーハンを口にしたのが10年以上も前のことだ。
いままで食べたどのチャーハンより鮮烈な印象を覚え、冬になると
このチャーハンを食べたいと思う自分がいることにも驚いていた。
佐々木のカウンターに座る食べ手の共通意識でもあるのだ。
「いい蟹を送ってもらえることができるからこそできる献立です。
ホント浜坂の漁師さんに感謝しています」
といつも佐々木は、食材を供給してくれる人たちを仲間のように考える。
その思いの強さもまた、佐々木の大きな魅力の一つとなっている。



カウンターの上。
大皿に蟹味噌たっぷりのチャーハンが盛られた瞬間、テンションは上昇する。
ぞれぞれが満面の笑顔で、これを食べる。
無口なのは数秒だけだ。
あとは、歓声と「おかわり!」という声が交差する。