睦月の〆のご飯 第1回

鯛ご飯

「やっぱり、年の始まりはおめでたい料理でしょう。すると鯛になります」と佐々木は言­い切った。
たしかに京都の正月には、尾頭付きの鯛を食べる。なかでも「にらみ鯛」とい­う風習があり、
これは塩焼きの鯛を三日間、縁起物として食卓に並ぶが、箸をつけずに下­げる。
ようやく4日に食べるという習慣があるのだ。

さて佐々木は滋賀の「きぬひかり」という米を使う。
美しい光沢があり、コシヒカリに比­すると粘りが少なくあっさりと仕上がる。
鯛の中骨で出汁を取り、それでご飯を炊くのだ。米粒一つひとつにまで鯛の味が染み渡っ­てゆく。
炊きあがったところに、炭火で焼いた鯛を並べてゆく。
まさにその姿は、新しい­波が打ち寄せているような光景となる。

それを一気にかき混ぜると、ふわっと鯛の香りがカウンターに舞い始め、「わぁ」と歓声­が上がり、
食べ手の気持ちが高揚するのである。
鯛ご飯を食べる。香りの次に米からにじみ出る鯛の出汁の旨味。
口に含むたびのその味わ­いが深まってゆくのだ。

ああ、日本人に生まれてよかった。こんな贅沢を味わえる瞬間がある。
ご飯を噛みしめる­と、日本人が、米を主食としてきた理由が分かる。
一汁三菜ということばがある。まさに­米を食べるために、創造された料理のスタイルといえる。
「このご飯には、この椀物を飲んで欲しいのです」と佐々木が供したのが「鯛の潮汁」で­ある。
これにて、鯛を一尾、まるまる食べた感覚を覚え、日本料理の真髄を味わうことに­なるのだ。